project report by Emi NAKAMURA/中村絵美さんのリポート

【イサムと雪玉】 中村絵美(北海道教育大3年)
 
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 イサム・クリーガー/Isamu Kriegerは数学や科学など他分野の考えを意識的に自分の作品に取り入れるスイス在住の作家である。今回生振(おやふる)にはイサムと同行して映像作家のマリオンも参加することとなったのだが、彼らの住む地域には雪がない。だが雪で雪玉を作ろうと言う。
 今回はオリエンテーションで、なぜイサムが雪玉を作ろうと思ったのかの理由を2つ説明してくれた。
(撮影:漆崇博、中村絵美)




一つには宇宙と水の関係があるということ。水は無重力空間では必ず丸になる。だから彼は雪(=水)が丸い玉に戻りたいんじゃないかと考えて、雪玉を作る事にしたのだそうだ。
また、もう一つはギリシャ神話に登場するシシュポスの物語からの着想だと言う。神に逆らったシシュポスは罰として地獄に落とされ、とても大きな丸い岩を山の山頂へ持っていけと命じられる。しかし、あと一歩と言うところで岩の重みから坂を転がり落ちていってしまう。そのためシシュポスは繰り返し山頂へ岩を転がし続けるのだという。日本で言う賽の河原のような話。
 イサムはこのシシュポスの話のあとに続けて、この無益な労働を、どうせならもっと楽しくやれないか考えて雪玉を作ることにしたんだ、と私たちに説明してくれた。
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 このシシュポスの延々と続く労働の話を聞いていて、なんだか雪国の人々の生活にダブる気がした。
 雪は誰にでも等しく降り積もるし、奇麗でロマンチックなものだ。しかし生活の中の雪はもっと過酷で、時には死と隣り合わせでもある。雪が降ったらまず雪をどかせねば生活は成り立たない。どんなに疲れていても朝早く起きて雪をかく必要がある。もちろん近所のお年寄りの家の周りも一緒にだ。
 それでもまた雪が降ったらだれでも等しくこの労働を続けなければならないのだ。一方で、雪は私たちの誇りでもあるのだけれど、それでも普段通りの生活をするためには雪は邪魔者でしかないとほとんどの人は認めるだろう。
 そういったところから、シシュポスの物語に繋がって、楽しく雪を扱えないかと提案した彼の考えはとても純粋でまっすぐだと思う。
北海道で生きる私たちには言えないようなことを軽々と言って、雪と真っ正面から取り組めるのは滞在作家の強みだろう。

 当日、会場となった生振小学校のグラウンドでは見渡す限り青空が広がっていた。
グラウンドもとても広く、月山というこじんまりした丘が見える。だれも踏み込んでいない真っ白な雪原は絶景だった。
 今回は冬とは思えないほどの晴れ模様が2日間続くことになった。
小さい子供はイサムやマリオンがボートピープルだと称したように、月山でそりに夢中。しかしお母さんお父さんが雪かきを始めると、そりに雪をつめて雪かきを手伝う。
 ちょっと高学年になると、もう雪かきはお手の物で黙々と力仕事を手伝ってくれていた。
スコップだけで雪をブロック状に取り出すお父さんや水でシャーベット状にした雪で骨組みの見える周りを奇麗に隠してくれた子供達、それを励ましながらたくさん雪かきをしてくれたお母さん…生振小の皆さんはとてもパワフルだった。
 イサムはというと、雪の扱い方と厳寒の石狩での作業は予想以上に大変だったようだ。
イサムの試行錯誤を見た参加者の皆さんが彼のやりたい事を考え、形にしていってくれていたと思う。雪に関しては彼らの方が一枚も二枚も上手だったようだ。

 全力で訳もわからず雪玉を形にしていった2日間。
 私は筋肉痛を終えて、これを書いている。
最終日には大きな雪玉の"もと”を目の前に、「よくこんなに雪あつめたなー」と感嘆する声もあったけれど、実際生活の中で移動させている雪の量を合計するとこんなものではないはずだ。豪雪地帯の石狩ではあのぐらいの雪玉をそれこそ何十個も作れるぐらい雪を移動させているだろう。
 多分イサムは「雪かきの楽しい提案」をする気はこれっぽっちもなかったけれど、結果的には目に見える形で雪国の私たちが普段行っている活動を一つの形にしてくれたんじゃないだろうか。それについて、自信を持つか、呆れるか、どちらにしろ雪はまた降り積もることになるけれど、考え方一つで見え方は変わってくると言うものだ。

 蛇足だが、実は生振は石狩平野の中で3つの川に挟まれた土地でもある。そんな場所の真ん中で雪が丸に戻りたがっていると言ったことも実は彼からのメッセージなのだろうか?
そんなことを考えると、雪が溶ける頃にまたイサムたちや生振の大きな雪玉の事を思い出せそうだな、と思う。
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中村絵美:石狩私立生振小学校でのisamu kriegerのプロジェクトに、制作アシスタントとして参加。
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by join_sapporo2 | 2010-03-16 15:41

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